「レタスが古代エジプトでバイアグラとして用いられていた」とする説がある。この説を主張するのはイタリア人で民族植物学者のジョルジョ・サモリーニ氏。彼によれば、この説によって考古学界でここ1世紀ものあいだ謎とされてきたあるバスレリーフ(浮彫り)についての説明がつくのだという。
ギリシャ時代やローマ時代から鎮静剤や鎮痛剤として使用されてきたレタスは、ラテン語ではラクツカLactucaと言う。「Lac」というのはレタスから出るミルク(苦い味で乳白色の液汁)を意味しており、古代の様々な書物にはこの液汁についての記述が多く残されている。
紀元前430年には早くも、医学の父として知られるギリシャのヒポクラテスHippocratesが「レタスの液汁にはアヘンのような効能が認められる」と評している。
1世紀、ネロ皇帝率いるローマ軍で植物の研究をしていたギリシャ人のペダニオス・ディオスコリデス軍医Dioscorides Pedaniosは、「レタスは、煽情的な幻覚を抑制する働きがある」と記している。2世紀の大プリニウスPliny the Elderもまた、レタスの性欲を抑制する効能について自らの著書『Natural History』にこう綴っている。「レタスが熱を下げたり、胃を綺麗にしたり、血液量を増大させたりするのと同じように、"眠りを誘い、性欲を鈍らせる効果も有している"。」
しかし古代エジプトにおいては、このレタスの意味が全く逆転している記録が残されているのだ。それが1世紀以上もの間、謎とされてきたバスレリーフだ。
問題のバスレリーフでは、レタスが神ミンMinへのお供え物として描かれている。ミンとは"多産(豊穣)と生殖"を司る神であり、そしてその姿は常に、"巨大に屹立したペニス"を以って描かれている。つまり上述した"性欲を抑制する"レタスが"性欲を昂揚させる"象徴として描かれているのである。
なぜ夢想を鎮めるはずのレタスが、精力を象徴するミンのお供え物として描かれているのか。この謎はここ1世紀以上もの間、考古学界の謎として学者達を悩ませつづけてきた。
この謎を解明すべくサモリーニ氏が最初に行ったことは、バスレリーフに描かれたレタスの種類を特定することであった。そして彼は、バスレリーフに描かれているレタスがラクツカ・セリオラLactuca Serriolaと呼ばれるワイルドレタスの一種であると結論付けた。
ラクツカ・セリオラは、キク科ヒマワリ属の植物で西洋タンポポのような外見をしており、現在我々が口にするレタスLactuca Sativaの原型である。
マサチューセッツ大学の生物学者リチャード・ケセリ氏は語る。「この2種類のレタスを学術的に分ける有為性は認められません。現在ラクツカ・セリオラは野生種とされ、我々が口にする食用と区別されていますが、両者の間にはこれといった重大な遺伝子の差異は見うけられないし、また交配も容易いのです。」
古代エジプトで始めて栽培されたレタスであるラクツカ・セリオラは、現在ではヨーロッパ、アジア、北アフリカ、カナダ、そしてアメリカと、広い地域においてごく普通の道端などに生息している植物である。しかしその形は一見すると西洋タンポポに似ており、一般人が見てもそれがレタスの一種であるとは認識できないのである。
ラクツカ・セリオラの葉はギザギザの楕円形をしており、ちぎると中から乳白色の液汁が出てくる。サモリーニ氏はこの液汁に含まれるラクツカリウムlactucariumと呼ばれる成分の化学分析を行ない、その結果、レタス(ラクツカ・セリオラ)はその服用量によって全く正反対の効能を人体に及ぼすことをつきとめた。
「分析の結果、1グラムのラクツカリウムを服用は、鎮静や鎮痛の効果を持つことが明らかになりました。これはラクツカリウムを構成するラクチュシンlactucinとラクチュコピクリンlactucopicrinと呼ばれる成分の働きによるものです。」
「その一方で服用量が2〜3グラムになると、トロパン・アルカロイドtropane alkaloidsと呼ばれる成分が持つ刺激性の働きが強くなるのです。つまり、バイアグラの効果を持つということになります。この発見によって、今まで謎とされてきた神ミンとレタスとの関係を説明付けることが出来ました。」とサモリーニ氏は語った。
トロパン・アルカロイドの典型例としては、例えばアトロピンatropine、ヒヨスチアミンhyoscyamine、スコポラミンscopolamine、そして麻薬として悪名高いコカインcocaineが挙げらる。
サモリーニ氏によれば、ラクツカ・セリオラに含まれているトロパン・アルカロイドは、中毒性の強いナス科ナス属、その代表例としてマンドレーク(マンドラゴラ)にも含まれているものと同種であるという。マンドレークといえば長い間、媚薬の作用があると評せられてきた植物である。
ケセリ氏はサモリーニ氏の研究結果に多大な関心を寄せており、更なる研究結果を楽しみにしているという。しかしケセリ氏は同時にこの研究結果に疑念を示している。
ケセリ氏は述べる。「ハンバーガーの具に使用されているレタスは、アメリカで最も消費されている野菜です。ならばサモリーニ氏の説からこの事実を見ると、アメリカ人は異常なほどに性欲が強い民衆であるということになります。しかし実際にそうであるかというと必ずしもそうであるとは言えません。ですから、レタスに性欲を高める働きがあるという考えはいささか信憑性に欠けると言わざるを得ません。」
【source】Lettuce Uncovered as Sexual Stimulant(Discovery Channel)
【see also】古代ローマ人が愛用したハミガキ粉はポルトガル人の尿(ブログ内)
【備考】レタス|毒と迷信|毒薬ノート|眠りを誘う究極の食材
http://www.i-kusuri.jp/cat.php?cid=7
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